〔遅いプレイ〕の実務的な扱いについて 2007/09/24(翻訳2007/12/14 翻訳改版2010/12/05) Kevin Desprez, L3(翻訳 園村祐輔,L1 翻訳改版 *ぱお*/米村 薫) 原文URL http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=judge/article/20070924a 定義: 〔遅いプレイ〕は違反処置指針にて定義されている違反だ。プレイヤーが適切な時間内にゲームを進める処理をとらなかった場合にこれが適用される。ここで気をつけるべきなのは、遅いプレイはラウンドの残り時間には関係なく適用されるということだ。ラウンドが始まってすぐに適用されることもあるし、時間と関係ないターン(訳注:追加ターンや時間無制限のマッチ)でも適用されうる。もし長時間考え込んでいるプレイヤーを見つけたら、ジャッジはそのゲームに注意を払うべきかもしれない。考える時間が長すぎたら、ジャッジはそこでゲームに割り込もう。 客観的判断と主観的判断: 〔遅いプレイ〕と〔遅延行為〕は違反処置指針において唯一明確な基準が書かれていない違反だ。〔ゲーム上の誤り〕はマジック総合ルールを読めばすぐに分かるし、〔非紳士的行為〕も非常に明確に書かれている。しかし〔遅いプレイ〕は「適正な時間内に」や「充分な速度で」といった観念的な定義しかされていない。それゆえ〔遅いプレイ〕は判断がすべてジャッジに任される主観的な概念になってしまっている。 2つのタイプの〔遅いプレイ〕: 1. ラウンドが始まってから50分(プロツアーなら60分)の間は、〔遅いプレイ〕はどちらのプレイヤーにとっても問題である。遅くプレイすると少ないターンしかプレイできないし、またプレイヤーの長考によってゲームのリズムも悪くなる。ゲーム中に関しては、行動を決めるために許される制限時間が何秒なのかはルールに明示されていない。ゲームとゲームの間や最初のゲームが始まる前に関しては、ルールに時間制限が決められている。シャッフルをして対戦相手にデッキを渡すことを3分以内にやらなければならない。もしその時間制限をオーバーしたら、ジャッジはそこで割り込もう。 2.追加ターンの場合は、遅いプレイはトーナメントそのものに悪影響を及ぼす。もし追加ターンが0から5ターン目まで全部2分ずつかかるとするとそのゲームはラウンドが終わってから15分ぐらいたってようやく終わることになる。あり得ないね! 〔遅いプレイ〕を判別する方法:  「長すぎる時間」って何秒?何分?それを実際にどう扱えばいいのだろうか?  プレイヤーが何も行動をせずに20秒から30秒ほど考えるのに使ったら、そのプレイヤーに声を掛け、時間を使いすぎていることを知らせよう。たまに、そういう呼びかけをしてもそこからさらに10秒か20秒経っても行動を起こさないこともあるだろう。そうなると、〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕が適用されることになる。この場合の懲罰はすべてのRELにおいて【警告】だ。  理論的には、ゲームの状況にかかわりなくプレイヤーは一定のリズムで行動を決めなければいけない。たとえばドラフトなどにおいて、両方のプレイヤーが多数のクリーチャーをコントロールしていてゲームの状況を完璧に把握するのはほとんど不可能になることもあるだろう。しかしたとえ信じられないぐらい無茶苦茶に複雑な状況だったとしても、考えるのに時間を使いすぎるのはルール違反である。マジックは、合理的な時間内に決定を下さなければならないゲームなのだ。  プレイヤーが複雑な局面(両者ともクリーチャーを10体ずつコントロールしているとか)に直面した時というのがプレイヤーが長考をしようとする典型的な場面だろう。両方のプレイヤーもジャッジも認識しなければいけないのは、そのような状況は通常、前のターンのより単純な局面からの「続き」として存在するということだ。(たとえば《ハルマゲドン》が解決されたなどで)ゲームの局面が劇的に変わったのでない限り、複雑な状況というのは遅いプレイを許す理由にはならない。  先述の制限時間は状況によって変えるべきだろう。プレイヤーが各処理を5から10秒程度で行なっていた場合、そのそれぞれの処理がゲームの局面を展開させる行動であったなら、1ターンを終わらせるのに2分かかったとしても〔遅いプレイ〕には該当しない。逆に、30秒考えてから土地をプレイし、20秒考えてから戦闘フェイズに入ることを宣言し、攻撃クリーチャーを決めるのにまた20秒考えたりしている場合は、間違いなくこのプレイは遅すぎる。この例では合計1分10秒しか使っていないけれども、ゲームを時間内に終わらせるために充分なだけゲームの局面が展開しているとはいえない。どの処理もゲームの局面を発展させる重大なものではないからだ。  ジャッジは、定量的な時間制限を使わない方法で〔遅いプレイ〕を判別してもよい。例えばあなたがゲームの状況を理解しようと試みてよい。あなたが状況を理解できたと判断したら、そこから5から10秒ほど経ったところでプレイヤーに注意を呼びかけよう。ただし、この方法を使う時は慎重にならなければいけない。あなたはそのテーブルのプレイヤーより遥かに優れていて、状況の理解が早すぎるかもしれないし、あなたのその環境でのプレイスキルが不十分なために理解に時間がかかり、ゲームに割り込むのが遅れてしまうかもしれない。自分のプレイスキルがどの程度なのかに注意を配ろう。  最後に、対戦相手が遅いプレイをしないように監視をしてくれとジャッジを呼んだプレイヤー自身も遅いプレイをするかもしれないことに気をつけよう。 遅いプレイとブラフ:  ブラフと遅いプレイの境界線は非常に微妙だ。例えば、盤面に土地しか並んでいなくて、手札にある2枚のカードも土地だったとしてもプレイヤーには少し考える時間をとる権利がある。選択肢があるように対戦相手に示すわけだ。これは1ターンか2ターンぐらいやるのならまったく問題ないが、毎ターンやり続けてはいけない。  プレイヤーがブラフをかけてはいけないとはルールのどこにも書かれていない。この事実は尊重しなければいけない。そのため〔遅いプレイ〕に関しては手札の内容は無関係だ。 ただし、それが故意かどうかを扱う時には手札の内容も考慮されることになる。 〔遅いプレイ〕の懲罰を適用する際に:  あなたがあるプレイヤーのプレイが不必要に遅いと考え、すでにそのことを注意していたならば、その時がそのプレイヤーに〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕を適用すると告げるべき瞬間だ! いつものように結果報告用紙の裏側に必要な情報を書き込もう。  この【警告】が出るごとに追加ターンを2ターン増やす。ただし、追加ターン中に〔遅いプレイ〕で【警告】を出しても、追加ターンは増やさない。 * 「注意」について: 注意を与える場合、注意であると宣言する必要はない。「もうすぐ遅いプレイの警告を出しますよ」と言うよりは、「早くプレイしてください」とか「すぐに行動を決めてください」というように言うほうがいいだろう。  これには以下の理由がある。プレイヤーはまだ遅いプレイをしているわけではないがそれに近い状態にある。プレイヤーはそれに気づいていないかもしれないので、ジャッジが問題が起こるのを防ぐべきである。だからジャッジはプレイヤーにルール違反をしそうであることを伝える。ジャッジは単に問題が起こらないようにしたいだけであるので、このような注意はジャッジが必要だと感じればいつでもしてよい。 * 【警告】について: プレイヤーに警告を出すことを決めたら、プレイヤーの集中を乱さないようにそのプレイヤーがその処理を終えるまで待つべきである。  これには以下の理由がある。 プレイヤーが〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕を犯しているのは間違いない。これはそのプレイヤーが時間を使いすぎていることに気づいていないか、もしくは単に決断を下すのが難しいのかもしれない。よって、プレイヤーの長考を終えるまで待つほうがプレイヤーを尊重しているといえそうだ。もちろん無限に待つわけにはいかないが、それを待たないことによってプレイヤーに二重の処罰を与えてしまうことが考えられないだろうか。実際に、懲罰の内容を書いたりすることはプレイヤーの考え事を変えてしまう。長考で頭の中に作った思考経路は失われてしまうだろうし、ひどいミスプレイをしてしまうかもしれない。これが、可能な限りプレイヤーが行動を決めるまで【警告】を出すべきではない理由である。  もし両方のプレイヤーが遅くプレイすることを選んでいたとしても、ルール違反であることには変わりない。上記の手順はすべて適用されるべきであり、両者とも早くプレイすることを拒めば【警告】を2つ出す。どうしてだろうか? 一貫性を持たせるためだ。ラウンドはじめの50分で割り込んでの注意や警告をしなかったにもかかわらず追加ターンになってから「プレイが遅い」とどうして言えるだろうか? 2ラウンド前には適切なペースとみなされたプレイ速度をラウンド6になってから「プレイが遅い」とどうして言えるだろうか?  〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕を出した後も、仕事は残っている。彼らが適切なペースでプレイを続けるようにテーブルのそばにいる必要がある。【警告】なんてものはプレイヤーが早くプレイすることを「推奨」されていると感じなければ何の意味もない。テーブルのそばにい続けることはそれを感じさせるよい方法だ。 プレイヤーの反発をどう扱うか:  プレイヤーはゲームに没頭しているもので、遅いプレイを判断するジャッジは外部の視点からゲームを見ている、という違いを忘れてはならない。プレイヤーにとっての時間はジャッジにとってよりもはるかに速く過ぎてゆく。それゆえジャッジは〔遅いプレイ〕の警告を受けたプレイヤーからの反発があることを予期すべきである。多くの場合、プレイヤーはなぜ警告を受けたのか理解しないだろう。もちろん、この事実はどのような類の〔非紳士的行為〕を許す理由にもならない。ただし、このような反発に実際に〔非紳士的行為〕の懲罰を与えるよりは、なぜゲームに割り込まれて警告を受けたのかを静かに説明するほうがよいようである。 遅いプレイ vs. 遅延行為:  これは大きな問題だ。遅延行為を大雑把に定義すれば「意図的な遅いプレイ」となるが、これは間違っている。実際にはそれよりも少しわかりにくいものである。あるプレイヤーが〔遅いプレイ〕には該当しなくても、〔遅延行為〕には該当するということがありえる。〔遅延行為〕の定義と、両者の違いを見てみよう。両方とも違反処置指針からの抜粋である。 〔遅いプレイ〕:適正な時間内にゲームの行動を終わらせなかったプレイヤーは、遅いプレイに従事しているものとする。  これはゲームを適切な時間内に終わらせるには遅すぎるプレイをしている場合を意味している。 〔遅延行為〕:時間制限を利用して有利にしようと、故意にプレイを遅くした場合はこの違反になる。  これは時間制限に合わせてプレイのリズムを変えている場合を意味している。  先ほど言及したように、〔遅いプレイ〕はゲームの状況を鑑みる必要はない。(おそらくあなたはそれを判断材料に入れるであろうが). それとは対照的に、〔遅延行為〕はほとんどの場合ゲームの状況が重要である。  それゆえ、この2つの概念は違う基礎に基づいている。これが〔遅いプレイ〕には該当しなくとも〔遅延行為〕に該当しうる行為が存在する理由である。  以下はパリで行われた世界選手権で起こった実例である。 プレイヤーA(Adam)はアグロ・デッキを、プレイヤーB(Billy)はコントロール・デッキをプレイしている。Adamは〔遅いプレイ〕が発生しないようにジャッジを呼んでいた。Adamは序盤で良い展開をし、非常に速くプレイしていた。彼はBillyが時折行動の選択について考えるのに時間を使うことについて文句を言っていたが、ジャッジはただプレイを続けるように言うだけだった。6ターンほど後には、Billyはゲームのコントロールを得ていて、AdamがBillyを倒すことが不可能なのは明らかになった。この状況下で、Billyは行動の節々に怒りの感情を見せるようになった。  7ターン目に、Adamはフェッチランドを引いた。彼は前のターンにクリーチャーを2体を除いてすべて失っており、相手には4体のブロッカーがいた。彼は20秒ほど考えた。そしてBillyが彼に行動するのか優先権をパスするのか、と尋ねた。Adamはかなり怒った様子で、〔遅いプレイ〕でジャッジを呼ばれているのはお前のほうじゃないか、と言った。(これは全然受け答えになっていないけどね)結局彼は土地をプレイして優先権をパスした。  状況は変わった。Billyはもう負けることはないが、時間がなくなる前にAdamを倒さなければいけない。だから彼はあらゆる行動を素早く行ってターンを終えた。Adamはフェッチランドを起動する前に時間を使って考え、土地を探すのにも時間をかけた。そしてアンタップする前に数秒間を取り、カードを引く前に何かを考え、といった風にその後も時間を少しずつ長く使っていた。  このAdamの行動は〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕にはまったく該当しないが、しかし〔遅延行為〕に該当する。勝つことがほとんど不可能であり、引き分けることが最後の望みであることを知ったうえで通常と異なる振る舞いをしているからだ。その最後の望みを叶えるための最後の選択肢は何か? 時間制限である!  この記事はプロツアー横浜におけるジャッジセミナーの内容に基づき、さらにSheldon "French addict" MeneryとAndy Hecktの監修を受けているものである。 Kevin Desprez DCI Judge Level 3