ルールを超えて

Mark Gottlieb


 新しいセットごとに、マジックのルールの変更は来るものです。まあ、とは言ってもほとんどの場合、気にする必要はないものですが。ルールというのは下水道みたいなもので、ゲームをスムーズに進行させるためには間違いなく必要なのですが、一方で順調に動いている限りは首を突っ込む必要もないものです。(いわば、ルールを弄るのは配管工の仕事ということです)

 しかし、「時のらせん」ではそうは行きません。新しいキーワード(結構複雑です)はともかく、それ以外にも変更点があります。まず、新しいルールが2つ導入されました。これはそう難しいものではありませんが、ルールを確認しておく必要はあるでしょう。また、古いキーワードについても手を入れました(そりゃもうサルみたいに)。エコーの働きも(ようやっと!)変更しました。

 さて、「『時のらせん』ルール入門は読んだよ! もうこれで充分だろ!」という方にお答えします。あれは『入門』ですが、入門者むけじゃありません。ジャッジや、脳神経医や、異星人のためのものです。あれはマジック総合ルールの引用と、ほんのちょっとの注釈が入っているだけのものです。ルールの変更について知りたくて、意味の解る言葉で書かれているものがほしければ、これを読んでください。

──やっとこ持った配管ザルより。

 以下に、この文章で書いている内容の一覧を挙げます。順に読んでいっても、あるいはリンクを使って飛んでも構いません。

新ルール

新キーワード能力

旧キーワード能力

・注:一語一語まで理解できるということは保証しません、あしからず。


マナ・コストを持たないカード

 「時のらせん」以前では、カードにマナ・コストが印刷されていない理由は3種類ありました。

 1.失敗(アルファ版の《Cyclopean Tomb》など)。

 2.土地であって、他にプレイする方法がルールによって定められている。

 3.《常在精神》。

 《常在精神》は、プレイされることはなく、他の呪文に連繋されて使うことだけができるように考えられていました。そのために、マナ・コストを持たずに印刷され、「マナ・コストを持たないカードは呪文としてプレイできない」というルールが定められました。《常在精神》は、普通通りにプレイできないだけでなく、《太陽の拳》や《呪文乗っ取り》、《等時の王笏》などを使ってもプレイできなかったのです。

 「時のらせん」には、マナ・コストを持たない、土地でないカードが6枚あります。《常在精神》と同じように、通常通りにプレイすることはできません。ですが、それらは待機能力を持っており、それによって(長い待機の後でですが)プレイすることができます。既にプレビューで2枚が公開されています。《運命の車輪》と《睡蓮の花》です(もちろん、これらのカードを手札からタダでプレイできるわけじゃありません。そんな恐ろしい!)。もちろん、そのカードを待機させ、時間カウンターを全て取り除いた後で、そのカードはプレイされる……ん、プレイされるんですよ! 前のルールだと、プレイできなかったじゃないですか。ということで、ここでルールを書き換える必要があったのです。

 新しいルールは前のルールとよく似ていますが、微妙なニュアンスが違っています。新しいルールでは、カードはプレイされない、とは書かれていません。存在しないマナ・コストを支払うことはできない、と言っているのです。《睡蓮の花》を手札からプレイしようとした場合、マナ・コストを支払う時点でルールによって止められます。つまり、「チミチミ、{}を支払うってのはどういうことかね」と。「0? 馬鹿言ってんじゃないよ!」と。コストを上昇させる効果でも、支払うことができるようにはなりません。ルール上、{}+{1}は計算できないのです。代替コストを支払う場合、あるいはコストを支払わずにプレイする場合には、「{}を支払う」という異常事態にはなりません。こうすることで、待機して《睡蓮の花》をプレイする、ということができるようになりました。時間カウンターを全て取り除いた後で、その呪文をマナ・コストを支払わずにプレイすることになります。この変更によって、《常在精神》を《太陽の拳》でプレイしたり({}を支払うのではなく{W}{U}{B}{R}{G}を支払うことになるわけですが)、《呪文乗っ取り》したり、《等時の王笏》に刻印したりできるようになりました。どうです!

 {}と{0}には天と地ほども差があることに注意してください。{0}はコストであり、支払うことができます。もちろん、土地はこのルールには関係しません。そもそもコストの支払いが必要ではありませんから。

+1/+1と−1/−1カウンター

 さてここで……新ルールの紹介です! 「時のらせん」から、+1/+1カウンターと−1/−1カウンターは相殺するようになりました。

 今までだと、《丘巨人》に+1/+1カウンターが2つ載っている時に、さらに−1/−1カウンターを載せた場合、4/4でカウンターが3つ載ったクリーチャー、ということになりました。

 今後は、《丘巨人》に+1/+1カウンターが2つ載っている時に、さらに−1/−1カウンターを載せた場合、+1/+1カウンター1つと−1/−1カウンター1つが相殺されて取り除かれ、4/4でカウンターが1つ載ったクリーチャー、ということになります。

 これは、状況を単純にするという観点から行なわれた変更です。カウンターの載っているクリーチャーのパワーやタフネスは変更されませんが、記録が単純になります。開発部はここ何年もの間、カウンターの種類が増え続けることを憂慮してきました。あまりにも多くの種類のカウンターが同時に存在すると、何が起こっているのかを追跡するだけでも困難になります(1円玉が2つ、おはじき1つ、ボタン1つが載っている《丘巨人》を指して「1円玉は+1/+1カウンター、おはじきは運命カウンター、……ボタンって何だったっけ?」というのは勘弁してもらいたい状況ですね)。これが、ブロックごとに1種類の「メインの」カウンターが定められている理由です。「時のらせん」では時間カウンターで、+1/+1カウンターはあまり存在しません。ラヴニカ・ブロックでは、+1/+1カウンターがメインで、他のカウンターはあまり存在しませんでした。ミラディン・ブロックでは、+1/+1カウンターと蓄積カウンターがありましたが、クリーチャーには+1/+1カウンター、非クリーチャー・アーティファクトには蓄積カウンターと住み分けていました。

 それらの中でも、−1/−1カウンターは何とかできると判断されました。かなり強力なのでブロックのメインのカウンターになることはないでしょうし、他のカウンターと混同されがちだと判断したのです(特に+1/+1カウンターと一緒にクリーチャーに載っていたら混乱するでしょう)。このルールによって、今後−1/−1カウンターを出す可能性が高まりました(想像より早く、2枚ほどはお目見えするかもしれませんね)。

 この結果、いくつかの相互作用は変化することになります。例えば、《よろめく大群》の−1/−1カウンターを《トリスケリオン》に載せたら、ただそのターンの間縮むというだけでなく、弾丸をその個数だけ完全に失ってしまうことになります。《大海の心臓、致清》で食べられるカウンターも減ります。−1/−1カウンターでクリーチャーの+1/+1カウンターを全て相殺したなら、そのクリーチャーはもう《ヘリウム噴射獣》の起動型能力の影響を受けることはなくなるでしょう。一見するとこのルールによってゲームの相互作用が減るように思えますが、新しい相互作用ができるだけです。相互作用の量は変わりません(新しい選択肢が増えたことによって、結果的には増えることになるかもしれません)。

 これは状況起因効果です。ですから、クリーチャーが致死ダメージを受けたかどうか、オーラが不正な状態になっていないか、などをチェックするのと同じタイミングでカウンターを取り除きます。この効果で相殺されるカウンターは、可能な限り全ての+1/+1と−1/−1になります。他のカウンター、例えば−1/−0と−0/−1と+1/+1が同じクリーチャーに載っていたとしても、それらは相殺されません。

瞬速/Flash

 これについてはあまり言うこともないのです(わざわざクリックして来てくれたのにごめんなさい)。というのは、瞬速は新しい能力というわけではありません。《ほつれた血管》、《キング・チータ》など、「時のらせん」以前の41枚のカードには瞬速がついています。今まで、そう呼ばれていなかっただけです。畏怖や警戒と同じように、瞬速は新しいキーワードですが、目新しい能力ではありません。

 《茨の鎧》や《ギトゥの火》も、この能力の変形を持っています。しかし、瞬速というのは完全にこの能力そのものだけを指します。ですから、それらのカードはオラクルを見ても変更されていません。

 《ヴィダルケンの宇宙儀》や《七曲がりの峡谷》などの、インスタントでない呪文をインスタントがプレイできるタイミングでプレイできるようにするカードに関しては、「瞬速」の語を使って書き直されます。ですが、それらのカードは他のものに瞬速を与えるわけではありません。そうすると、他のプレイヤーのカードをプレイできるようにする、《にやにや笑いのトーテム像》などのカードにおいて困ったことが起きてしまいますし、そうする必要はありません。

刹那/Split Second

 刹那は、言わば今日的なインタラプトの姿です。インタラプトに馴染みがない人に説明しておくと、何年も昔にあったカード・タイプで、インスタントよりも速い呪文でした。スタック・ルールの導入とともに、全てのインタラプトはインスタントに変更され、このあまりに複雑極まりない呪文タイプは駆逐されたのでした。

 刹那は、スタックに蓋をします。刹那呪文がスタックにある間、プレイヤーは呪文をプレイすることも、起動型能力をプレイすることもできません(マナ能力は除きます)。ただし、通常通り優先権は発生します。できることが激しく制限されるだけです。解決されたりその他の方法で刹那呪文がスタックを離れたら、元どおりにプレイすることができるようになります。自由を謳歌しましょう!

 ……つまり、刹那呪文がスタックにある間に起こることは、以下の通りです。

 他にも、スタックを使わない行動は存在しますし、それらは可能です(《ぼんやり》とか)。しかし、スタックを使わない行動の中で大きな2つは、不可能です。つまり、土地のプレイと、カードを待機させることです。土地のプレイは、刹那呪文がスタックにあるためにソーサリー速度でしかプレイできない土地はプレイできません。また、カードの待機は、刹那呪文がスタックにある間にはその呪文をプレイできないので、待機させることもできないのです。

 刹那呪文を打ち消すことは可能か、という問いには、「まあね」と答えておきます。もちろん《対抗呪文》(や《差し戻し》、《巻き直し》、《マナ漏出》……)は、刹那呪文がスタックにあるときにはプレイできませんが、《相殺》や《虚空魔道士の弟子》、その他何枚かは打ち消す手段があります。また、刹那は刹那呪文以外の呪文を保護するわけではありません。《神の怒り》をプレイして即座に刹那呪文をプレイしたとしても(これでスタックに蓋がされて《神の怒り》は打ち消されないぜ)、対戦相手はその刹那呪文の解決を待って、《神の怒り》に打ち消し呪文を使えばいいだけのことです。

待機/Suspend

 「時のらせん」ルール入門に、待機に関する全てのルールと膨大なコメントが載っていましたが、さて、どう働くのか、という説明です。

 待機能力は3つに分割して考えられます。

1.待機カードを手札に持っていて、そのカードをプレイできるタイミングであれば、その待機コストを支払ってゲームから取り除くことができます。これはスタックを用いない行動で、誰にも止められず、また対応することもできません。カードは対応する数の時間カウンターを載せた状態でゲームから取り除かれます。

 繰り返しになりますが、プレイできるタイミングでなければなりません。待機カードは、ソーサリー、クリーチャー、アーティファクト、エンチャントのいずれかです。つまり、全てがいわゆる「ソーサリー速度」ということです。ですから、通常はあなたのメイン・フェイズ、スタックが空のとき(要はソーサリーがプレイできるタイミング)にしか待機させることはできません。適正な対象があるかどうか、呪文としてプレイできるマナが出せるかどうか(そもそもプレイできるのかどうか)などは考慮せず、単にタイミングだけが重要です。タイミングに関しては、奇妙なことが起こることもありえます。《法の定め》が出ていて、そのターンに呪文をプレイしていたとしたら、他の呪文をプレイすることはできず……従って待機させることもできません。《ザルファーの魔道士、テフェリー》を場に出していたら、クリーチャー呪文は全て瞬速を持ち……従ってクリーチャー・カードをインスタントをプレイできるときならいつでも待機させることができます。

2.あなたのアップキープの開始時に、あなたがオーナーである、待機しているカードから時間カウンターを1つ取り除きます。それぞれのカードの能力は別々に誘発し、必ず取り除かなければなりません。

3.時間カウンターの最後の1つが取り除かれたら、それを即座に、マナ・コストを支払わずにプレイします。いつ、誰が、どうやってそのカウンターを取り除いたかは関係ありません(ですから、アップキープの間にクリーチャーやソーサリーをプレイするということがしばしば起こることになります)。カードのプレイは強制です。必要ない時や邪魔になる場合でも、プレイしなければなりません。この時点で呪文はスタックに行き、対象を選び、そして通常通りに処理されます。もちろん、打ち消されることもありえます。

 呪文がクリーチャー呪文である場合、あなたがそのコントロールを失うまでの間、速攻を得ます。呪文の解決後、そのクリーチャーは速攻を持った状態で場に出ます。速攻は何もなければずっと残りますが、最初のターン以外は関係ありません。他のプレイヤーがそのコントロールを奪ったり、場を離れたりした場合には、速攻は失われます。

 適正な対象がなかったり、対戦相手が《ザルファーの魔道士、テフェリー》をコントロールしていたり、あるいは他の理由によって呪文がプレイできない場合、そのカードは単にゲーム外にとどまり、それきりになります。もう一度プレイする機会が来ることはありません。時間カウンターはもう載っていないので、待機能力の一部である誘発型能力はどちらも誘発することはありません。また、「待機している」とも言われません。

 待機の最も奇妙な部分は、追加コストがある場合の処理でしょう。追加コストがマナ以外のコストである場合(「手札からカードを1枚捨てる」など)、それをする必要があります(呪文のプレイは強制です。忘れないよう)。追加コストが支払えない場合、呪文はプレイされません。しかし、追加コストがマナの場合。例えば相手が《アウグスティン四世大判事》を出していた場合などは事情が異なります。マナ・プールに充分なマナが入っていたら、必ず支払わなければなりません。ですが、マナ・プールに入っていなければ、その時点でマナを出すか、あるいは出さないかの選択が出来ます。土地をタップしてマナを出すことは強制ではありません。マナを出し、呪文をプレイし、コストを支払う……か、あるいはマナを出さず、従ってプレイに失敗するか。どちらかを選ぶことになります。

エコー/Echo

 エコーは変更されましたが、どう変わったかについては明言を避けます(今回は)。以前のエコーは「エコー」とだけ書かれており、その能力の誘発時にそのパーマネントのマナ・コストを支払うか、あるいはそれを生贄に捧げるかを選びました。新しいエコー・カードは「エコー [コスト]」と書かれています。能力の誘発時に、そのパーマネントのエコー・コストを支払うか、生贄に捧げるかを選びます。旧来のエコー・カード全てについて、新しい書式になるよう訂正が出されますが、全てのエコー・カードにおいて、エコー・コストはマナ・コストと同じになっています(訂正前の《アクリディアン虫》は{1}{G}のクリーチャーで「エコー」持ちでしたが、訂正によって{1}{G}の、「エコー{1}{G}」持ちクリーチャーになりました)。

マッドネス/Madness

 マッドネスのルールがどう変わったかについて説明するのは、昔のマッドネスのルールを完璧に理解している人というのが存在しない以上非常に困難です。存在しないは言い過ぎですが、まあ、正気ではなかったので追放した、というところです。

 マッドネス・カードを捨てたとき、捨てて墓地に置く代わりに捨ててゲームから取り除くことができます。そうした場合、能力が誘発します。以前のルールでは、この誘発型能力が解決された後、マッドネス呪文をマッドネス・コストを支払ってプレイできる時間というのが存在し、その時間は優先権がパスされるまで残りました。意図としてはこの間にプレイだけができればよく、他の行動をするためには優先権がパスされるだろうと思っていたのですが、実際にはそうなりませんでした。土地をプレイしたり、裏向きのクリーチャーを表向きにしたりする(当時はまだ変異はなかったのですが)ことができてしまい、何がどうなっているのか判らなくなってしまいました。さらに言うと、マッドネスの誘発型能力が解決されたときの優先権がそのプレイヤーになかったらどうなるのか、と。相手の《強迫》で捨てさせられたマッドネス・カードの処理は? 等などの問題があったのです。

 そこで、今回。マッドネス・カードを捨てたとき、捨てて墓地に置く代わりに捨ててゲームから取り除くことができます。そうした場合、能力が誘発し、その能力の解決中に、マッドネス呪文をマッドネス・コストを支払ってプレイすることができます。マッドネス呪文をプレイできる時間帯というのは存在せず、プレイするかしない(で墓地に送る)かを即座に決めるようになりました。

 なぜ最初からこうでなかったのか、というと、そこには技術の進歩があります。当時は、呪文や能力の解決中に他の呪文をプレイするという考えはありませんでした。今は(《等時の王笏》や《精神ヒルの塊》など)そういう方法が存在し、そして非常に一般化しているのです(待機能力もこの方法が使われています)。

 この変更によって何が発生するか、というと、2つの、まったくもって気が触れたとしか思えないゴタゴタが解消されることになります。

 場に3枚の土地が出ています。

 《入念な研究》をプレイし、カードを2枚引きます。《尊大なワーム》ともう1枚捨てます。

 《尊大なワーム》をゲームから取り除き、マッドネスが誘発し、誘発型能力を解決します。

 土地をプレイします。

 《尊大なワーム》を{2}{G}でプレイします。

 今日では、捨てたときに(マッドネス能力の解決時に)プレイするので、そのタイミングで土地をプレイすることはできません。これで困るコンボデッキ使いはいると思いますが、状況が判りやすくなったこと、それに、コンボデッキ使いにしても一々説明する手間が省けたのも事実でしょう。

 もう一つ、こんな例もあります。

 プレイヤーAが《強迫》をプレイし、Bは《堂々巡り》を捨てます。

 Bは《堂々巡り》をゲームから取り除き、マッドネスが誘発し、誘発型能力を解決します。

 Aが優先権を得ます。Aが呪文をプレイしたら、Bは《堂々巡り》を{U}でプレイできます。Aがパスしたら、Bもパスできて……フェイズ終了です。

 こちらも同じ。《堂々巡り》は捨てられたときに(マッドネス能力の解決時に)プレイするので、次に何が起こるのかを待つことはできません。マッドネスは即座に処理されるようになりました。

 また、マッドネスの注釈文も変更になっています。トーメントでは、「あなたはこのカードをあなたの手札から捨てるにあたり、そのマッドネス・コストを支払うことによってこのカードをプレイしてもよい。」となっていましたが、時のらせんでは「あなたがこのカードを捨てる場合、あなたはそれをあなたの墓地に置く代わりに、マッドネス・コストでそれをプレイしてもよい。」となっています。わかりやすくなったと思います。

変異/Morph

 変異は以前通りのおかしな能力ですが、1つだけちょっとした変更点があります。昔のルールでは、裏向きでプレイしたクリーチャーは2/2のクリーチャーで、「テキストを持たない」「名前を持たない」「サブタイプを持たない」「エキスパンション・シンボルを持たない」「色を持たない」「マナ・コストは{0}」でした。……ナニ? 何でマナ・コストがあるんでしょう? 今までは、マナ・コストを持たない呪文はプレイできませんでした。裏向きのクリーチャー呪文がマナ・コストを持たなかったとしたら(他にも色々持っていないわけですし)、スタックに載せた時点で不正なプレイになってしまっていたわけです。

 今回、「マナ・コストを持たない呪文」にある通り、このルールが変更されました。マナ・コストを持たない呪文を、存在しないマナ・コストを支払うのでなければ、呪文としてプレイすることができるようになったわけです。変異の場合、もちろん、マナ・コストを支払いはしません。{3}を支払うのです。ですから、(《Illusionary Mask》は置いといて)裏向きの呪文、裏向きのパーマネントは2/2のクリーチャーで、「テキストを持たない」「名前を持たない」「サブタイプを持たない」「エキスパンション・シンボルを持たない」「色を持たない」「マナ・コストを持たない」ということになりました。

 この方がいいじゃないですか。裏向きのクリーチャーや呪文の点数で見たマナ・コストは、やはり0です。この変更は、マナ・コストを参照する(《ペンドレルの変転》などの)カードには影響を与えますが、まず関係ないと言っていいでしょう。実際、ほとんどの人は裏向きのカードがマナ・コストを持つとは思っていなかったんじゃないでしょうか。

バイバック/Buyback

 何も面白いことはないですね。2つだけ挙げておきます。

 まず、注釈文がより明瞭に書き換えられました。「あなたは、この呪文をプレイするとき、さらなるコストとして、[コスト]を支払ってもよい。このコストを支払った場合、[このカード]は墓地には行かずあなたの手札に戻る。これは呪文の効果の一部である。」というものが、「あなたはこの呪文をプレイするに際し、追加で[コスト]を支払ってもよい。そうした場合、それの解決に際し、このカードをあなたの手札に加える。」に変わりました。

 それから、呪文のコントローラーがバイバック・コストを支払うかどうかを決めたプレイヤーと違っていた場合(例えば《徴用》などで)の処理が明確化されました。今まではルールの文書上も注釈文と同じように、そのプレイヤーが支払った場合、という扱いになっていましたが、バイバック・コストが支払われていた場合に、そのオーナーの墓地に行く代わりにそのオーナーの手札に戻る、と変更されました(ルール入門ではこの変更に追随しきれていませんが、総合ルールの更新の際には修正されます)。

フラッシュバック/Flashback

 バイバックと同様、フラッシュバックのルールもコントローラーが変わった場合の処理について明確化されています。誰がプレイしたにせよ、その呪文がフラッシュバックでプレイされていた場合には、その呪文はスタックから他の領域に行く代わりにゲームから取り除かれることになります。

スレッショルド/Threshold

 スレッショルドはオデッセイ・ブロックの84枚のカードに存在しました。これは能力語の先駆けで、内容を簡潔につかむためのものであり、実際にルール的意味を持つ用語ではありませんでしたが、非常に複雑な特性定義能力でした。「スレッショルド─[文章]」とは「あなたの墓地に7枚以上のカードがある場合、[このオブジェクト]は [文章] を持つ」という意味です。[文章]はなんでもありで……あなたの墓地に7枚以上のカードがなければ、[文章]はゲーム上存在しないことになっています。

 今日「スレッショルド」を導入するなら、それを能力語にするかどうかについてメールで多くの人から質問を受けました。中には、そうすべきだと主張するものもありました。質問への答えは「イエス」で、提案に関しても「そうすべきだ」と答えています。「時のらせん」は、古い能力と戯れ遊ぶセットですから、スレッショルドを能力語にするチャンスです。ルールから「スレッショルド」の項目を削除し、全てのスレッショルドのカードに訂正を出すことになります。これはあなたが考えるほど破壊的な変更ではありません。

 例えば、《変態するワーム》のオラクルは、

スレッショルド ─《変態するワーム》は+4/+4の修整を受ける。(あなたの墓地にカードが7枚以上ある場合、あなたはスレッショルドを持つ)

から

スレッショルド ─ あなたの墓地にカードが7枚以上ある場合、《変態するワーム》は+4/+4の修整を受ける。

に変わります。

 《遊牧の民のおとり》は、

(W),(T) : クリーチャー1体を対象とし、それをタップする。

スレッショルド ─ (W)(W),(T):クリーチャー2体を対象とし、それらをタップする。(この能力はあなたの墓地にカードが7枚以上あるときにのみプレイできる)

(W),(T) : クリーチャー1体を対象とし、それをタップする。

スレッショルド ─ (W)(W),(T) : クリーチャー2体を対象とし、それらをタップする。この能力はあなたの墓地にカードが7枚以上あるときにのみプレイできる。

 になります。どんなもんです? こんな感じで印刷されればほとんどのスレッショルドカードは短いテキストで終わるでしょうね。しかし、すべてがこんなに簡単になるわけではありません。いくつかのカードには(猿のようなテーマを続ける)ひねくれた問題があります。例として《ケンタウルスの酋長》を見ましょう。これにはこう印刷されています:

速攻

スレッショルド ─ ケンタウルスの酋長が場に出たとき、あなたがコントロールするクリーチャーは、ターン終了時まで+1/+1の修正を受けるとともにトランプルを得る。(あなたの墓地にカードが7枚以上ある場合、あなたはスレッショルドを持つ)

 能力が誘発するときだけ、あなたがスレッショルドを持っているかどうかがチェックされ、解決時にはスレッショルドしているかどうかを見ません。つまり、(最初から作っていたらこうしていたと思われる)次の文章が役に立たないということです。

速攻

スレッショルド ─ ケンタウルスの酋長が場に出たとき、あなたの墓地に7枚以上のカードがある場合、あなたがコントロールするクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受けるとともにトランプルを得る。

 この文章だと、誘発するときと解決時にあなたにスレッショルドがあるかどうかをチェックしてしまいます。さらに悪いのはこれです:

速攻

スレッショルド ─ ケンタウルスの酋長が場に出たとき、あなたの墓地に7枚以上のカードがあるなら、あなたがコントロールするクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受けるとともにトランプルを得る。

 この文章だと、解決時にのみスレッショルドかどうかを見るだけで、誘発時にはチェックしないのです。従って、次の方法しかありません。

スレッショルド ─ あなたの墓地にカードが7枚以上ある場合、ケンタウルスの酋長は「ケンタウルスの酋長が場に出たとき、あなたがコントロールするクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受けるとともにトランプルを得る。」を持つ。

 ずいぶんマシになりました。少し変則的ですが、これなら能力が誘発するときだけスレッショルドがあるかどうかチェックします。スレッショルドが強烈なオーバーホールを受けている間(ルールから削除されていることも「オーバーホール」と呼んでいいのなら、ですが)、スレッショルドを持つどんなカードも、元と異なった動作はしないでしょう。


原文:http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/feature/362
翻訳:*ぱお*/米村 薫、翻訳協力:九印